お題83 「あたたかい場所」 マーラのお話です♪

パコン!!

小気味のいい音がコロン城の城主の部屋に響く。俺、マーラがご主人に対して毎朝出している音だ。

「マーラ!痛いよ!!もっと優しく起こしてくれてもいいでしょ!」

「何回も起こしてるだろ!!いい加減に起きろよな!!おまえコロンの領主ともあろう奴が寝起き悪すぎる!!」

俺は目の前で自分の頭を痛そうに撫でている寝癖のご主人・・・コロン領主トウヤにフライパンを片手に声をはりあげてそう言った。

「うん、悪いと思うよ?でも・・・もうちょっと穏便な起こし方ってないかなぁ?」

トウヤが猫なで声を出してほんわかした笑顔を浮かべて首を少し傾げて俺にそう言った。

「ははぁ、もう騙されないぞ!!ぶりっこしてももう甘やかさないからな!!」

トウヤは男の子にしてはちょっと可愛い顔をしてるから・・・時々こうやって可愛い子ぶる。以前何回か騙されては書類の山を片付けるはめになった。俺にも学習能力くらいある。そう何回も騙されてたまるかっていうんだ!

「でも痛いよ・・・なんか前よりそのフライパンかたくなってるんじゃないの?」

「俺も力ついてきたからなあ・・・フライパン片手に戦える魔術師になれるかも」

「そんなのならなくていいよ!」

「じゃあ、領主としてもっとしっかりしろ!!」

俺がそう言うとトウヤは目を潤ませて俺を睨むように見上げていた・・・うっ・・・正直俺はトウヤに泣かれると弱い・・・。

「ほ、ほら!泣くな!!今日はトウヤの好きなオムレツつくってやるから!」

「ほんとに?」

「ああ、ちょっと甘めにつくっとくって!だからちゃんと着替えて降りてこいよ!」

トウヤはにこっと笑って頷いた。俺はとりあえず朝ごはんをつくってやるため、降りていった。本当は朝食つくるのはコックの役目だけど・・・トウヤは俺の料理を食べたがるから領主のごはんだけは俺が用意している。俺は結局あいつに甘いと思う・・・。俺にとってあいつは生まれて初めて父さん以外であたたかい場所をくれた奴だから・・・。

 

 俺はボーっと昔のことを思い出していた・・・。

 

「気味悪いんだよ化け物!!」

「こっちに寄るなよ!!」

他の子供たちが・・・俺を殴ったり蹴ったりする・・・仕方ないんだ・・・俺は人間じゃないから・・・俺は化け狐の血が混ざってるから・・・。

「ほら、帰ろうぜ!化け物菌がうつる!」

リーダー格の男の子がそう言うと、みんな帰っていった・・・やっと家に帰れる・・・家に帰れば・・・父さんがあたたかく迎えてくれる・・・。

 

 涙が出そう・・・もう慣れてもいいころなのに・・・俺はもう11歳だ。友達がいないとかそんなこと・・・もう気にしないでいたいのに・・・。

「ただいま・・・」

「おかえり、マーラ」

俺と容姿のよく似た父さんが優しい笑顔で迎えてくれる。母さんはいない・・・冒険者だか自称勇者だかわからないような奴に・・・殺された・・・。

「また・・・いじめられたのかい?服がぼろぼろじゃないか・・・」

「ううん・・・いいんだ・・・」

父さんは濡れタオルで俺の顔を拭くと、一呼吸おいた。

「なあ、マーラ・・・ガイア大陸って知っているかい?」

「うん、それくらい知ってるよ」

「じゃあ、そこのコロンっていうところ、知ってる?」

「コロン・・・あの学術の街?」

「そうだよ。私はそこで魔術の研究をしようと思っているんだ。マーラも行かないかい?」

「父さんが行くのなら・・・行く」

断る理由なんてなかった。だって俺はここにいたって辛いだけだから・・・。

「よし、じゃあ行こう」

 

 それからしばらくもしないうちに俺と父さんはヨツンへイムを離れてガイア大陸の、コロンに引っ越した。12歳になって・・・俺は魔法学院という学校に入学した。魔術師の卵たちが勉強する場所だ。他にも神官学校とか・・・学校はいろいろあったけど俺は魔法学者の息子だし、魔法には興味があったから・・・迷わずそこに通うことにした。いじめられるなんてことはしなかったけど、人との付き合い方なんてろくに知らない俺は孤立していた。女の子に話しかけられたこともあったけど、どう接してあげたらいいのかわからなくて・・・結局そのまま一人だった・・・。

 

 15歳になった時のことだった。俺は父さんに連れられてコロン城へと行った。

「いらっしゃいませ、ようこそコロン城へ。私はここの執事のキナと申します。ヨリュシュ様、マーラ様、どうぞおくつろぎくださいませ」

白髪のいかにも人の良さそうなおじいさんのキナさんはそう言って俺と父さんを応接間に案内してくれた。中に入ると一人の・・・俺と同い年くらいのやわらかそうな茶色の髪に優しそうな笑顔をうかべている男の子がいた。その子は俺たちに微笑むと、立ち上がってお辞儀をした。俺はやっぱり他の子とどう接していいのかわからなくて父さんを見た。

「ええと、あなたがトウヤ様ですね。私はマーラの父のヨリュシュと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ・・・新しく領主になったトウヤです・・・ヨリュシュさん、はじめまして・・・それから・・・マーラくん、よろしくね」

トウヤは、俺に笑顔を向けた。領主・・・?領主!?こいつが!?

「マーラ、おまえにはトウヤ様の付き人をしてもらおうと思うんだ。魔法学院の主席から領主の付き人を選んでいるようでね。おまえはまだ学生だけどトウヤ様とは同い年だし・・・」

俺はせいいっぱい嫌そうな顔を父さんに向けた。だって・・・領主の付き人なんて俺には荷が重過ぎるし・・・こんな・・・見た目は可愛いけど・・・頼り無さそうな領主だなんて・・・絶対嫌だ・・・。

「まあよく仕事とかがわからないみたいだな・・・とりあえず今日は息子を置いていきますので仕事を教えてやってください」

父さんは・・・嫌がらせか!?めちゃくちゃ笑顔でトウヤにそう言った。トウヤの方もわかりました、と了承した・・・俺の就職・・・決まってしまうのだろうか・・・。

「それでは私は失礼いたしますね」

父さんは頑張れよ、と俺に言うとそのまま城をあとにした・・・。

「マーラくん、マーラくんのお部屋、案内するね」

もうそんな手配までされてるのか・・・俺は納得いかないまま、トウヤに部屋に案内された。部屋は一人部屋としてはちょうどいい広さだった。洋室で、日当たりも良く、木でできた質素な家具は俺の好みだった。本棚もけっこうあるし、魔術書たくさん入れられそうだな・・・。

「荷物は明日ヨリュシュさんが運んできてくれるって」

「そ、そうか・・・なあ、俺は何すればいいんだ?」

「う〜ん、僕のお手伝い、かな」

「例えば?」

「う〜ん・・・あ、これから街まわるからいっしょに来てよ!」

「え?あ?街??なんでって・・・!おい!ひっぱるなよ!!」

トウヤは俺のローブの袖を引っ張って外に連れ出した。そのまま居住区の方へと向かった。トウヤは広場で街の人に挨拶をして回った・・・これって領主の仕事か??

「なあ、こんな近所周りみたいなの領主がやるの?」

「さあ?僕は小さい頃からやってるから・・・でもいいと思わない?領民の人たちの生活が見れるじゃない?」

トウヤはさも当然のように笑顔で答えた。でも近所の子みたいにおばさんたちに挨拶されている領主っていいか??俺は領主はもっと堂々としてて、どっしり構えていた方がいいと思うんだけど・・・。トウヤは小さい子供たちにも人気みたいだった。トウヤが笑顔で挨拶すると側に駆け寄ってきて嬉しそうにしている子を何人も見た。驚いたことがひとつ・・・トウヤは挨拶していく人みんなの名前をしっかり覚えていた。俺になんの仕事をしているとか、どういう遊びが好きだとか、細かく教えてくれた・・・。いくらセレーネでは大きくない学術街だからって・・・人はそれなりにいる。それを一人一人正確に記憶しているだなんて・・・俺はただ感心するだけだった。

 

 トウヤは仕事が遅くて何よりとろくて見ていてイライラした。書類の整理にどれだけ時間かけてるんだ!怒って部屋に入った・・・トウヤは街の人の相談を親身になって受けていた。どうやら・・・書類にただ目を通すとかはしないみたいだった・・・街の問題には中から解決しようとする・・・そんな奴だった。俺は次第にトウヤを自分の主として見るようになった。トウヤは俺を友人として扱ってくれた。それは・・・すごく嬉しかった・・・だから、俺はどうしてもあのことだけは気付かれちゃいけないと思った。

俺が・・・

人間ではないこと・・・。

 

「ああ、月が綺麗だね・・・」

ある日、トウヤは書類を整理しながら俺にそう言った。俺は・・・へえ・・・とぼんやりしながら・・・見てしまった・・・赤い・・・月を・・・。

「あ・・・あ・・・」

俺は必死に体を抑えた。トウヤが心配そうに駆け寄ってきた。俺は力いっぱいトウヤを押しのけた。俺の耳は変形し、尾が生えてくる・・・髪も異様に光った銀色になって・・・目は真っ赤になった・・・俺の・・・母親から受け継いだ姿に変わった・・・。

「み、見ないで・・・見ないで!!」

嫌われる・・・気味悪がられる・・・!

「う・・・」

俺の意識は遠のいていった・・・あまり自分でモノを考えられなくなる・・・まだ俺の側にいたトウヤの腕を爪でひっかいた。服がちぎれ、トウヤの腕から赤い血が出た。トウヤは酷く動揺していた。ぼんやりとかわいそうとは思った・・・でも俺の意識は飛んでいた・・・。

「マ、マーラ・・・大丈夫だよ・・・」

トウヤは腕を押さえながら苦し紛れに笑顔をつくった。

「そんなに怯えないで・・・?」

トウヤの言葉に少しだけ意識が戻った気がした。床に目をやると絨毯にトウヤの血がしみをつくっていた。

「平気だから・・・ね?」

トウヤの言っている言葉の意味がよくわからなかった・・・怯えているのはトウヤ・・・だろ?

「僕は平気だから・・・マーラだもんね、その姿見ちゃったからって・・・何も変わらないから・・・だから、怯えないで・・・」

トウヤは弱々しい力で化け物と化している俺の体を抱きしめた。まだ完全に意識のはっきりしない俺はトウヤの背中を引っ掻いた・・・また血が出てくる・・・トウヤは痛みに悲鳴をあげたが、俺を抱きしめたままだった。

「大丈夫だから、大丈夫だから・・・!」

トウヤは何回もそう言った・・・俺は気が付くと涙を流していた。

「マーラ・・・?」

「怖かったんだ・・・俺、本当は・・・」

元の姿に戻った俺はみっともなくもトウヤにすがって泣きじゃくった。

「俺、人間じゃないんだなんて言えなかった!言ったら・・・また、ひとりぼっちになっちゃうんじゃないかって・・・トウヤ、俺のこと嫌いになるんじゃないかって・・・」

「何言ってるの・・・マーラはマーラでしょ?そんな簡単に嫌いになるわけないよ」

トウヤは普段と変わらない笑顔を俺に向けた。俺は声をあげて泣いた。

 

 次の日、トウヤは傷のことをいろいろ聞かれたがいっさい答えなかった。笑顔で大したこと無いよ、と言うだけだった。トウヤは頼りない領主だと思う。威厳なんてこれぽっちもない。子供だから、といういいわけはきかないと思う。ルーンの長はトウヤより5つ下だけど威厳たっぷりだった・・・これは個人の問題なんだろうなと思った。相変わらず仕事も遅いし・・・時々俺におしつけて逃げることまで覚えた・・・どこでそんな知恵つけたのかわからないけど・・・それから・・・トウヤは誰よりも優しい心を持っているということがわかった・・・。深くて、包み込むような優しい領主・・・頼りなさをなんとかすれば、とてもいい領主になるんじゃないかなと思った・・・だから・・・俺がしっかりするように面倒みてやらないと・・・ね・・・。

 

 俺はそんな懐かしい日を思い出しながらフライパンでオムレツをつくった。ミニトマトとブロッコリーを添えて・・・パンとマーガリンも用意して、朝ごはんの準備を終えた。

「トウヤ〜朝ごはんできたぞ〜」

俺はエプロンにフライパンを片手に持った・・・ちょっとよそでは見せたくないような主婦のような姿のまま階段を上って、トウヤの部屋のドアを少し開けてそう伝えた・・・トウヤは・・・二度寝に入っていた・・・。それはもう、可愛らしい寝顔をして・・・、俺はその寝顔に対して微笑ましいなあと笑みを浮かべて・・・

「こんのクソ領主!!いい加減に目覚ましやがれ―――――――――――――!!」

パコ―――――――――――――――ン!!

「いった〜い!この妖怪フライパン狐!!」

「うるさい!とっとと着替えんか!!」

俺はそう言うともう1回フライパンで頭を思いっきり殴った。

今日もコロンは平和である・・・。

3回・・・トウヤの城主日誌には俺の毎朝のフライパンで殴った回数が書いてあった。

「後でもう1回殴ってやろうか・・・」

 

トウヤは包み込むような奴だと思えば・・・なんか同い年なのに子供をもったような気分にさせる奴だった・・・。素直かと思えばはねっかえりの時もあるし・・・可愛い顔してるぶん余計に・・・ちょっと憎たらしい・・・。

 

でも・・・にこって微笑まれると・・・憎ったらしさはどこかに飛んでいってしまうんだよね・・・。

 

トウヤはいい領主で、俺にとってはあたたかい場所・・・そのものかもしれない・・・

そう思った・・・。

 

でも朝起きなければフライパンで殴るのはやめないからな・・・。

 

俺は心の中でそう言っておいた・・・。

 

 

おしまい


〜あとがき〜
マーラのお話でした♪またの名をフライパン小説(笑)翡翠さん中心にフライパン同盟が本格的化していてうちのマーラも同盟員なのです♪お仲間には翡翠さん宅のセアラさん、時雨崎さん宅のセフィアさんがいます☆
同時進行で被害者同盟も(笑)うちの代表はトウヤでお仲間は翡翠さん宅のリオンさんに時雨崎さん宅のウィリアムさんです(笑)
マーラは妖怪の血が入った子です。でも普通に常識のある男の子なのですが、赤い月を見てしまうと姿が妖怪のものに変わってしまうという設定です。魔法学院では常にトップの成績を収めている優等生。実生活では家事万能な主婦っぽい子。ちなみに広場でのおばさまとの井戸端会議にも参加しているという裏設定ありです(笑)
主人に向かって横暴の限りの従者であるマーラですがトウヤのことはすごく大事にしています♪トウヤはそんなに見目いいわけじゃないんですがマーラから見るとかなり可愛いみたいです(笑)なんだかんだいって親ばかなマーラです☆本編でフライパンシーンが出せるかどうかはわかりませんがフライパンキャラとしてがんばってもらおうと思っています☆