お題28「勉強」

本館『ぴよぴよ』のお題「どうだろうね?」の続きのようなお話です。お話というよりえいの自伝。語りです。
勉強している人たち、受験生にエールをささげます。


 ――学生生活もあと1年ないうちに終わる。もう勉強はしなくていいんだろうか?

 ――勉強は役に立ったのだろうか?

 ――私にとって勉強って何だったかな?



 バフッ。

 私はベッドに寝転がった。

 周りはいつもの私の部屋。真っ白というよりは少しくすんでいるような白い壁。木製の家具。専門書だったり楽譜だったりがある。パソコンや周辺機器、デッキからはさっきつけたお気に入りの箏の音楽が流れる。夕刻で電気はつけていないがカーテンは閉めている。ほんのり申し分程度に明かりが指している部屋。

 何だかとても疲れたが心地よい。やりきった感が私の中に広がっていく。

 私は今日来春からの就職先が決まった。

 大手企業のIT部門配属だ。

 本当は教育業界に行きたいと思っていたが、入社意思の強かったところは落ちてしまったし、まだ残っているところもあるのだが辞退することにする。

 最初は今残っているところの方が就職先に選んだところより志望度が高かったのだが、根本に戻ってみたのだ。

 私は一人でも多くの人を理解してあげたい、やりがいを提供したい、喜んでもらえるようなことをしたい。

 教育業界ではたしかにそれが実現できそうな会社があった。でも落ちたんじゃ仕方が無い。私に先生は向いてないのだろう。まあ、隠れ不良だし。もっとそこに合った子が入社する、それでいい。私の目指したものはきっといっしょに受けた同じ思いを抱いている人や社員の人が実現してくれているんだろう。託せる気がした。

 何も私のしたいこと……私がなりたい自分になるためには教育業界にこだわらなくてもいい。ITなんて関係ないように思えるけど、プロジェクトリーダーの仕事に惹かれたのだ。チームをまとめて、メンバーがより楽しんで働ける環境をつくりお客様によりよいものを提案し提供する。今何が大事か、今誰がどんな状況か見極め信頼が大切な仕事。これをこなせる人というのが私のなりたい人だ。なら、それに挑戦するだけ。それが決定打だ。

 年間休日もまあまあだし、これなら箏も続けられそう。音楽面の夢も諦めずに済んだ。

 私は私の夢への一歩を踏み出した。疲労の中にその充実感がみなぎって心地よい。

 こんな風にベッドに寝転がってた時期があったなぁ……。



 あれは中学受験の受験生だった時だ。



 私は広島から東京に出てきた。中学受験をするため、いずれ東京に戻ることになるということで父は単身赴任状態のまま、いわゆる上京になるのかはちょっと微妙だけど、東京で受験勉強をはじめた。

 理由は簡単。私立の6ヵ年一貫校に通いたかった。きちんと自分のやりたいことを見つけて社会に出たかった私は6ヵ年の私立校できちんと行きたい大学に行く準備をし、大学で自分の将来を考えながら勉強したかった。

 女子校を受験校に選ぶのは、女の子の友達の作り方が下手だった、だから直したかったのだ。

 現実は厳しかった。東京の小学校でまあまあ勉強ができる方だったのに、習熟度で真ん中より下のクラスに入ることになった。周りには3,4年生の時から受験の準備をしている人たちもいた。受験まで1年きった頃から受験勉強の環境に身を投じる私は珍しい様子だった。

「B女子学院って校舎綺麗だよね」

「K女子は大学もあるし、受験応用クラスなら充分入れるってよ!」

 もちろんその学力でも入れる6ヵ年一貫の女子校ぐらいあった。けれど、それでいいのかな? はじめたのが遅いからもうだめなんてことは無いんじゃないのかな?

「ママー、クラス1個あがったー!」

 少し勉強にも慣れて真ん中のクラスまでいった。

 夏期講習で、いつも貰う、学習チェック表をとにかく埋めたいと思った。当時は4教科生だったので4時ぐらいまで授業がある。授業以外にも500分勉強したら、どうなるだろう?

 私は朝早く起きてから電車に乗る時も漢字の勉強をまずやった。毎朝のテストに備えるため。授業がはじまるまでひたすら覚えるように書き取り、読み取りをした。授業の休憩時間も次の日のテスト勉強をした。授業が終わった後は、自習教室で復習をやって、教室開放時間が終わるとまた電車で漢字を覚えながら帰った。家に帰れば復習、その後予習。500分はなかなか使い切れなくて、大体夜中2時ぐらいまでかかった。朝はどんなに遅くても6時半には起きないと頭も冴えないし、勉強時間が稼げない。

 小学生で4時間ぐらいしか寝られないのはきつかったし、朝の満員電車も体力を削いだ。夕方もたちっぱなし。その中でも1分でも多く勉強時間を稼ぎたかった私は、漢字の書かれた単語カードをめくっていた。

 そんなに必死にならなくてもと思う人もいるかもしれなかったけど、私は凡人かそれ以下ぐらいの頭の良さしかない。1,2年の遅れを取り戻すのに必死だった。負けたくなかったし、何より「わたしにだってできるんだ」そう思いたかった。

 3期目の最後の夏期講習が終わり、試験を受けると私はベッドにつっぷした。今日は500分もお休み。夜の8時にはぐっすりだった。

 その甲斐あって私はその時のテストは物凄く上手くいって、2つだけある特進クラスに入った。

「お嬢さんの学力なら偏差値50台の学校は充分行けます。60台も充分目指して良いかと」

 中学受験の偏差値は高校受験の偏差値より10低い。普通に勉強したとしても50あるとは限らない厳しい世界だ。面談で志望校の設定をあげていいと言われたと聞き喜んだ。

「私、自分で行きたい大学選びたいから、上に四年制の大学ついてないところがいい!」

 自分の意思も強くなっていく。この段階で自分の意見をはっきりもつ癖がついたのかもしれない。

 その後もきちんと勉強はした。特進クラスなら大体受かる学校だったけど、充分名門校だった女子校に受かったし、6年生の優秀賞20位以内、19位に入ることができて表彰もされた。

 私は、この時、受験に上手くいったっていうことより何より、目標に向かって努力すれば成し遂げられるという自信を得た。

 勉強は好きじゃない。やらなくていいならやりたくない。そう思うこともあるけど、勉強はやればやっただけ返ってくる一つ。日本には「自分もやればできる」という自信を持って取り組める人が少ないと聞いた。1割強ぐらいのその自信を持っている人は中学受験やそういった競争に挑戦した人たちがほとんどだという。これは頷けた。

 私も、この時、辛い課題を自分に課さないでいたら、何かに憧れてがむしゃらに努力することもしなかったかもしれない。

 変わりたいと思って努力を重ねてきたけど、やればできると信じないでいつまでも人と関わりたくない、内向的な自分のままだった可能性もあったかと思うと本当に受験勉強して良かったと心底思う。憧れの先輩のようになりたいと必死にもがいて今の自分になった。私は今の自分以外に生まれてきたくないほど自分と自分の仲間に誇りを持ってる。だから、その基礎を築いた、小学生の私にありがたく思う。受験させてくれて行きたい学校に通わせてくれた両親にも感謝だ。

 もちろん受験しなくたってそういう思いを持つ人もいる。

 でも、一つのきっかけになり得る「受験」はそう悪いことばかりじゃない。

 勉強は知識を得ることも大事だけど、そこから違うものも得られるんじゃないかな。


 勉強自体に興味をもって夢に向かう人もいるだろう。

 勉強をがんばった結果行った学校で夢と出会う人もいるだろう。

 勉強をがんばったことで夢を実現できるかもしれない努力の大切さを知る人もいるだろう。


 勉強なんて人生の役に立たないから無駄だといってる人。役立てる気が無ければ勉強だろうが何だろうが役になんて立たない。

 そこから何を学び取るか、何を学ぼうとするかできっと違ってくる。これは勉強に限らない。

 実態を知らないままぐちゃぐちゃ文句言ってるようじゃ何も学べない。

 とびこんでみて、辛くてもがんばった先にこそ何か得られるものがある。

 乗り切ってはじめて見えてくるものはいっぱいあるんだから。

 今辛くてもがんばってみよう。きっと何か学べるよ、得られるよ、成長できるよ。

 
 私は受験勉強からやればできるんだという自信を学んだ。

 私はいじめられたことから人に理解されない苦しさ、悲しさを学んだ。

 私は大学生活で自分が何をしたいのか真剣に考えることの重要さを学んだ。

 私はサークル活動を通して人との信頼関係を築く難しさと楽しさを学んだ。


 きっとこれから社会に出ても学ぶことは、勉強すべきことは多い。

 世の中は私の知らないことで溢れてる。

 見えなかったものが見えるのは嬉しい。

 今は何もできないただの学生の私だけど。

 なりたい自分になるため学びたい、努力したい。

 絶対なりたい自分になる夢を叶えたい。



 ――“勉強”さん、これからもいろいろ学ぶからよろしくお願いします。


〜あとがき〜

 自伝でした〜。
 なんていうか、人生に無駄なものなんて実際は無いんですよね。無駄になるかどうかはその人次第で。何かがあってその時に何か得ようと貪欲になってればいろんなことを学べて吸収できる。
 大学、サークルは宝庫でした♪ 本当に大事なことを、私にとっては大事なことをたっくさん学びました。
 でも、ボーっと授業受けてるだけだったり、サークル入ってるだけでは何も無い可能性もあるんですが。
 そんな学生生活を送るなら極論学校通わなくていいと思います。働くなり、何か趣味に打ち込むなりで得られるものがあるならそっちの方が有意義ですし。
 ただ、個人的な意見だと、もし大学行くか迷ってる人がいたら、行ってみればいいと思います。社会人にはその後だってなれますし、行けるのなら折角なので。学べそうなものを探していっぱい学び取ることは高校までだといろいろ制約もあってできなかったことが大学では結構できます。いっぱい吸収して一回り成長して社会に出るのも良いでしょ? と私は思います。
 学費かかっちゃうので、学生生活において何かを学ぼうとできない人はお金が勿体無いので、外で稼ぐのがいいでしょう。ただ、人によっては学費分の価値のある、それ以上のことを学べます。
 受験生の方がんばって下さい! 努力して得た成果は絶対自分の自信に繋がります! 目的のため死に物狂いで努力する力は絶対無駄にはなりません! ファイト!!