お題96「病気」 鈴としぃちゃんのお話です。しぃちゃん視点・・・暗いかもしれません・・・


   死ぬ時って・・・昔のことが蘇るっていうのは本当なのかな・・・

   もし本当なんだったら・・・僕はもうすぐ死んでしまうのかな・・・

   ぼんやりと白い天井を見上げながらそう思った・・・

   僕は病気に負けてしまう・・・

   両親は悲しむだろうな・・・

   ごめんなさい・・・

   それから鈴ちゃん・・・

   ごめんなさい・・・

   いっしょに箏弾いてあげられなさそうだよ・・・

   それに君は心配だな・・・

   君まで病気になっちゃわないかな・・・

   またあの時みたいに君が病気になってしまったら・・・

   原因は僕だよね・・・

   そして今の君に手を差し伸べてくれる子はいるのかな・・・?

   僕は・・・そっと目をとじた・・・

 

 

「えっと・・・鈴ちゃん?」

僕は都心の方からうちの小学校に転校してきたっていう女の子・・・宇佐美鈴ちゃんに声をかけた。その子は不思議そうに僕を見た。

「僕、青山忍っていうんだ。好きに呼んでくれていいよ、出席番号の関係で隣同士だし・・・よろしくね!」

鈴ちゃんはちょっとおそるおそる、といった感じだったけど僕の出した手をゆっくりと握ってくれた。

「よろしく・・・えっと・・・しぃちゃん?」

鈴ちゃんはそう呼んできた・・・珍しいな・・・大体みんな忍ちゃんとかなのに・・・まあ、いいかな。

それが僕達のはじまり・・・

 

 鈴ちゃんはあまりしゃべらない子だった。普段いつもぼんやりしてるけど話しかけると恥ずかしそうに微笑んでくれた。でもいつからか・・・鈴ちゃんの笑顔はひきつったものになった。僕なにかしたかな・・・段々、いきなり話しかけるとびくっとして・・・まるで僕を怖がっているかのような反応をするようになった・・・なんでなんて全然わからなかった・・・それから夏はすごく暑いのに鈴ちゃんは長袖をやめなかった。暑くないの?って訊いたけど『これでいいの』としか返さなかった・・・すごく暑そうだけど・・・。

 

ある日、鈴ちゃんが保健室に運ばれたっていう連絡が違うクラスの友達の川西くんから入った。放課後で、僕は図書館にいた。アスレチックから落ちたりでもしたのだろうか・・・風邪でもひいてしまったんだろうか・・・僕は慌てて保健室に行った。鈴ちゃんは眠っていた。保健室の先生はお留守みたいだった。僕は鈴ちゃんの横に行って、やっぱり暑そうだったから袖をまくってあげた・・・。

「す、鈴ちゃん・・・」

僕は思わず名前を呼んだ・・・袖の下には青痣だらけの腕があった。まるで腐ってるみたいな色になっていた。反対側の袖もめくってみると同じく青痣だらけだった・・・それを隠すために長袖をたとえ30℃を超えても身につけていたみたいだった。呆然としているとガラッと扉が開く音がした。

「忍、どうだ?」

入ってきたのは友達の川西一くんだった。めがねがよく似合う頭がすごく良くて、僕より落ち着いている男の子だ。

「ね、ねえ・・・この腕・・・」

「ああ、隠してたんだな・・・鈴、いじめられてるんだよ、男子たちに。それでぼこぼこにされてたみたいだ」

「どうしていじめられるのさ!?」

「都会から来た・・・それが鼻についたってとこだろうな・・・いじめなんてそんなもんだ」

川西くんは吐き捨てるように言った。都会にいたのは・・・別に鈴ちゃんが悪いわけじゃないのに・・・理不尽なものだな・・・僕は怒りをとおりこして悲しくなってきた。

 

 しばらくして鈴ちゃんが目を覚ましたので、僕と川西くんは鈴ちゃんを家まで送っていった。僕は言い様の無い不安があった・・・。そして月日は流れて秋になった。

 

「鈴ちゃん!おはよう!」

僕はその日もいつもどおり挨拶をした。か細い声で『おはよう』と・・・いつもなら鈴ちゃんは言ってくれるはずだった。鈴ちゃんはただ僕を見て、軽くお辞儀をしただけだった。風邪ひいたのかな?

「鈴ちゃん、具合悪いの?」

僕はランドセルを下ろして鈴ちゃんにそう尋ねた。鈴ちゃんは見たことがないくらいぼーっとした表情で僕を見て、う、とかあ、とかしか声を発しなかった・・・風邪には見えない。咳きもしないし・・・。わけがわからないまま一日の授業も終わり、下校時間になった。

「鈴ちゃん、本当にどうしたの?」

階段を上りながらそう尋ねたけど、鈴ちゃんは何も言わなかった。階段を上りきった後、紅葉に足をすべらせたのか鈴ちゃんは転びそうになった。僕は慌てて支えた。

「大丈夫?」

「う、うえ・・・」

鈴ちゃんは泣きそうな顔で僕を見た。声は出るみたいなんだけどなにせ言葉になっていなかった。分かれ道にさしかかって、僕は鈴ちゃんと別れた。最後までとうとう言葉という言葉はかけてくれなかった。

「忍」

「わ!か、川西くん!」

「ちょっとうちまで来い」

川西くんはそう言って、僕を家まで連れて行った。川西くんのご両親はいつも仕事で忙しいみたいで家には川西くんしかいなかった。

「何かあったの?」

「鈴のことなんだが・・・」

「うん」

「声が出ない・・・いや、しゃべれなくなったといった方がいいか」

川西くんは、少し辛そうにそう言った。

「どういうこと?」

「まあアレに似た症状だな・・・『失語症』・・・厳密に言えば違うと思うが・・・」

「な、なんで・・・?」

「あいつまだ殴られてる・・・それに最近は女子までいじめだしたらしい・・・」

僕はショックだった。鈴ちゃんのことは見張ってるというと変だけど、見てるつもりだった・・・まだあの子のいじめが全然減ってないなんて・・・。

「何か言うと殴られる・・・何か言えば酷い言葉を返される・・・段々鈴は何も言えなくなった・・・おまえにさえ何か言えば何かされるんじゃないかと思ったんだろうな・・・そう思ったら言葉が出なくなったんだろう・・・」

「なんでそんなことわかるの?」

「俺の母さんは保健室の先生だって・・・言わなかったっけ?」

あ・・・そういえば・・・それであの時も連絡してきたのか・・・。

「それで、母さんが精神的なものだと思って言葉で書かせたらしい・・・それで今回のことも知った、鈴の症状は母さんの専門外だ。カウンセラーとか精神病院の医者とかの管轄になるだろうな・・・」

川西くんは遠い目をしながらそう言った。

「鈴ちゃんは・・・病気?」

「心理的な・・・な」

「治るの?」

「ああ、だからカウンセラーとかにまかせて・・・でもな」

「何?」

「心理的なものでも風邪とかの病気でも最後はそいつ自身の治癒力にかかってる。インフルエンザでもさ、薬ですぐ治っちまうやつと・・・死んじまうやつがいるだろう?あれも治癒力の差だろうさ・・・」

「鈴ちゃんしだいってこと?」

「ああ・・・で、できれば医者とかに頼らず治せればいいかなって思う・・・」

川西くんは真剣な目で僕の目を見た。

「おまえが、あいつを自分で立てるようにしてやれよ」

「僕?」

「力になりたいんだろ?」

「うん・・・でも・・・自信ないよ・・・」

「俺も手伝うって・・・とにかくあいつには手をさしのべてくれる人間が必要だ、それも親とかじゃなくて他人の・・・」

僕は鈴ちゃんの恥ずかしそうな笑顔をふと思い出した。また微笑んで欲しいし、『しぃちゃん』って呼びかけて欲しい。

「川西くん、がんばろう!がんばって鈴ちゃんに立ち直ってもらおう!」

「ああ、もちろんだ」

 

それから僕が何をしたっていっても・・・何かした記憶はあまりない。ただいつもいっしょにいて、くだらないような話をして・・・趣味でやってる箏を聴かせて・・・励ましの言葉をかけてただけ。鈴ちゃんは・・・いつの間にか声を、言葉を取り戻した。4年生になると、鈴ちゃんとは別のクラスになったけど、別人かと思うほど明るい女の子になった・・・ちょっと寂しかったな、あの時は・・・。そして5年生の2学期にあの子はもといた都心へと転校した。その後も時々夏休みとかで遊びにきてくれて・・・いっしょに遊んだ。ひとつまだ心配なことといえば鈴ちゃんは自分に自信が無さ過ぎることだ。明るいことは明るくても・・・まだ不安定だった・・・。それがすごく心配。

 

「鈴ちゃん・・・」

僕は鈴ちゃんの名前を呼んでみた。今頃は東京の中学校で勉強してるだろう・・・今は6月・・・鈴ちゃんの学校は2期制だから中間テストの真っ最中かも・・・。

「ごめんね、これからは力になってあげられないよ・・・」

弱気だと思うけど僕はもう生きられそうにない・・・鈴ちゃんのまわりに今どんな子たちがいるのかはわからない。鈴ちゃんが病気になってしまった時に治すために手を貸してくれる子はいるのだろうか・・・。鈴ちゃんはまだ中学3年生だ・・・これから躓くことだってあるだろう・・・この先挫けてしまうことだって・・・。僕は心のなかで紙飛行機をつくって飛ばしてみた。

「この紙飛行機をうけとった人・・・鈴ちゃんをお願いします」

そんな人がいるのかはわからない。でも鈴ちゃんだけじゃなくてみんな人間だから・・・みんな誰かの支えが必要だと思う。

「鈴ちゃんも、がんばって・・・」

いつか鈴ちゃんが誰かを支える日もくるだろう・・・お互いに支えあえたら素敵だよね・・・。

僕も鈴ちゃんに支えられてたと思う・・・。

必要とされることは嬉しかった・・・。本当に・・・嬉しかった・・・。

 

「鈴ちゃん、ありがとう・・・さようなら・・・」

 

爽やかな風が窓から入ってくるなか・・・僕は別れをつげた・・・

 

いつか全ての人が誰かに支えられて、誰かを支えて・・・

 

みんながみんな優しくてあたたかな気持ちになれたら・・・

 

そう祈りながら・・・眠りについた・・・



〜あとがき〜
鈴と「音楽」にも出てきたしぃちゃんを使いました・・・鈴の過去はまた私の過去と同じです。もともと鈴視点で書いたお話だったのでかなり暗かったのですがしぃちゃん視点にして少し雰囲気変わりました・・・といってもやっぱり暗いのですが・・・しぃちゃん・・・いなくなっちゃいましたしね(汗)
しぃちゃんは本当に心優しい子です。自分が病気で苦しくても鈴を心配してあげてます。
鈴はしぃちゃんを慕っている設定ですがしぃちゃんは恋愛感情を鈴には抱かなかったようです・・・まあ初恋はかなわないっていう感じでしょうか??(訊くな)
このすぐ後のお話というのも準備していますが鈴がひたすら壊れてますので・・・これより暗い内容になること請け合いです(泣)
最後の言葉はつい最近になってつけたしました。なぜって私がみんなに支えられているから・・・誰かを支えてあげられたらいいなって思って・・・書き加えました。
いつか感謝しているみなさんへの気持ちをあらわせる作品をつくれたらなって思っています♪