帰る場所
「僕はここに残る」
眩き光を放つその渦の中で、少年は言葉にした。
彼の言葉に唖然とする仲間達。
「何、馬鹿なこと言ってるのよ!早くこっちに来なさい!」
ひとりの少女が彼に向かって必死に手を差し伸べた。
もうすぐふたつの世界をつなぐ扉が閉ざされる。
そうなれば、二度とふたつの世界がつながることはないだろう。
しかし、少年は彼女のそれに答えることなく、静かに首を振る。
「ようやく分かったんだ、自分が何をしたいのかを。僕の求めるものは僕たちの世界にはない、ここの世界にあるんだ。だから...ここに残る」
少年の言葉に驚きを隠せない仲間達。しかし、少女だけは彼の言葉を遮るかのように首を振った。
「そんなこと許さない!あんたのいるところはここじゃないの!そんなこと絶対に許さない!!」
「......」
彼女の言葉に少年は困惑の表情を見せた。困ったように微笑む彼だったが、その瞳からは揺るぎない強い意志が現れている。
「嫌よ!絶対に嫌!!残るなんて絶対に許さない!!あんたは私たちと一緒に帰るのよ!!」
少女は今にも泣きそうな表情で必死に手を伸ばした。
彼が自分の手を引いて一緒に帰ることを願って。
しかし、それは叶わなかった。
少年は背後で静かに待っている青年を一瞥すると、少女らの方を振り返り力強い口調で言った。
「約束するから」
「!?」
「必ず帰ってくるって約束するから」
「!!」
少女は目を見開き、少年を凝視する。
それでも、首はいやいや、と横を振り、その目には一粒二粒と涙を落としている。
少年はいつもの柔らかな笑顔を浮かべて、仲間に向かって叫んだ。
「いつかまた会おうな!!」
「__________________ッ!!!!」
弾かれたように少女が少年の名前を呼ぶ。
しかし、激しく眩い光とともに彼女の声はかき消されてしまった。
光が徐々に輝きを失い、あとには見慣れた懐かしい景色が映し出される。
小鳥がさえずり、柔らかな日差しが彼女たちの頭上から影を落とす。
時折、吹き抜ける風はすっかり温かい春の香りだ。
少女達は取り残されたように、ぽつんと雄大に広がる草原の中で佇んでいた。
少女の濡れた頬に風が優しく撫でる。
自分たちは帰って来たのだ。在るべき場所へ。
そして、少年は行ってしまった。
必ず帰る、という言葉を残して...。
少女はぐいっと目元を拭うと、真っ青な空を見上げた。
今頃きっと彼もこの空を見ているのだろうか。
自分たちと遠くかけ離れた時空(とき)の中で、同じ空を。
「絶対...絶対に帰らないと許さないからね」
少女は、少年に抱く淡い心を密かに想いながら、彼の帰りを待つ。
その日、少女の目に映る空は、あの時、彼と共に過したあの瞬間(とき)と同じ空がゆったりと流れていた...。