お題85「嫌い」 ユウギリの本編より昔のお話
「嫌い!!」
あいつなんか嫌いだ!僕は自分の部屋の鏡に向かってそう言った。
「おまえなんかだいっきらいだ!!」
僕はまた鏡に向かってそう・・・叫んだ。僕の声はよくとおるから屋敷内で響いた。召使いたちがどうしたんだろうと足を止める音がした。無理もないか・・・この家の主は僕だ・・・その主が取り乱しているのだったら気になるだろう・・・。ちょっと深呼吸をして落ち着いた。14歳といえど家長だし、僕は天照神官長だ・・・冷静でいないと。そうしているとドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「お嬢様、失礼しますね」
入ってきたのは僕の幼少時からの世話係で僕にしてみれば母親代わり・・・まあ男の人だけど・・・のレイだった。
「どうなさいました?何やらイライラしているご様子ですね・・・」
レイはいつものように優しい、包み込むような笑顔を僕に向けてそう言った。
「僕は・・・あいつが嫌いだ」
「あいつ・・・ですか?」
「あいつだよ・・・護衛の・・・シオン」
僕は天照神官長・・・ヘリオス神聖国では神王の次の位になる。だから護衛とかいるんだ。天照神官長になって、神官の息子であるシオンっていう僕より6つ年上のヤツが僕の護衛になった。腕はかなりいい。誰かの護衛になるよう育てられてたらしく投げナイフを持たせればたちまち攻撃手・・・スナイパーになる。それでいて、うん・・・認めたくないけど・・・認めるよ、かなり見目がいい、そのうえ穏やかで落ち着いてて性格も・・・いいっていえるんだろうな・・・。いつも笑顔で・・・女の人にもすごくもてる。
「シオンさんはいい方だと思いますよ」
わかってる・・・すごくいいヤツだと思う・・・僕が・・・僕が気に入らないのは・・・。
『ユウギリ殿』
『何?シオン』
『愛してますよ』
『・・・はあ?』
『俺は、あなたを愛してますよ』
わ!わけがわかんない・・・何なのあいつ!!
「とにかく!僕はあいつが嫌いなんだ!大嫌いなんだ!!」
気味が悪いんだよ!だって・・・だっていつもへらへら笑ってるくせに!2人になるといつも・・・すごい真剣な顔して・・・あんなこと僕に言って・・・絶対狂ってる!!
「お嬢様がそういう風に言うのはとても珍しいことですね」
レイは僕の髪を優しく撫でるように梳きながらそう言った。
「お嬢様はあまり人に干渉しない性格だから・・・めったにそう強い感情を人に持つことありませんもんね」
「そう・・・かな」
「ええ、私や、アスカ様やリンさんには大好きと言ってくださいますが、他の方はいい人だとか仕事ができるとか、そういう客観的な感想しか言ってませんよ、お嬢様は」
そう・・・なのかもしれない。僕は・・・干渉されるのが好きじゃないから・・・干渉しないのかも・・・。
「たとえ『嫌い』でも、お嬢様はシオンさんを意識なさったのですね」
「意識・・・?」
「ええ、シオンさんに少なからず興味を持った、と言えるのでしょうね」
「そ、そんなこと・・・僕はあいつが嫌いなんだ!」
「ふふふ、いずれわかりますよ、お嬢様はまだお若いから」
「レイだって22でしょ!まだ!!」
「『親』ともなれば何となく違ってきますよ」
レイは僕を優しく抱きしめると、書類の整理をしてきますと、部屋を出て行った。
僕は次の日、いつものように天照神官長として神殿に行った。
「おはようございます、ユウギリ殿」
シオンは爽やかな笑顔を浮かべて言った。その笑顔さえも・・・ムカついた。
「今日も可愛いですね」
シオンは、ちょっといたずらっぽく微笑みながら僕の耳元でそう囁いた。
「おまえなんかだいっきらいだ〜!!」
顔が赤くなるのが恥ずかしくてそう叫びながら僕は奥の仕事部屋に駆け込んで行った。
嫌い、嫌い!シオンなんか大嫌い!!
それが・・・すごくシオンのことを意識してるんだってことに・・・しばらくして僕は気付かされるはめになった・・・。
シオンなんか嫌いだ・・・だって僕の心、おかしくしてしまうから・・・
シオンのせいで僕、病気になっちゃいそうだから・・・
シオンなんか・・・嫌い
嫌い・・・好きだから・・・嫌いだよ・・・
おしまい
〜あとがき〜
ユウギリのお話でした♪シオンに翻弄されているユウギリの初々しさが出ているといいな〜と思っています♪「嫌い」という感情は「好き」と違って嫌な印象が強いですけど、いろいろ考えてみて人に嫌われるのと、人に何とも思ってもらえないのとどっちが嫌かなと・・・嫌われていても、それは存在を認めているからであって無視されていないのだから・・・それはそれでただ嫌なものってだけでもないのかな・・・とか思ってしまいました。
ユウギリの場合は天邪鬼なところもありますし、自分の気持ちがよくわからなくて混乱して、シオンを嫌いと言っているのですが。勝気で強い女の子のユウギリですがこういう可愛い部分もあらわせていけたらいいなと思っています♪