一人の男と一人の女が立っていました。
地には幾つもの刃と骨とが墓標の如く濫立し、土は血で赤黒く変色しています。
二人は、この戦場で戦った戦士でした。
男は向かってくる敵を皆殺しにし、女は敵に情けをかけて逃がしてやりました。
そして、二人はお互いを護る為に戦っていました。
女は男に問いました。
「どうして、逃げていた敵まで殺すの?」と。
男は答えました。
「君を護るためだ」と。
そして逆に男が女に問いました。
「どうして敵を殺そうとしない?」と。
女は答えました。
「貴方にも彼らにも死んで欲しくないから」と。
そして女は言いました。
「独りよがりかもしれない。叶わない夢かもしれない。けど、私には貴方を護るだけの力がある。
そして、私には言葉があるから。相手と話す為の言葉が。
戦いを止めて、話し合わなくちゃ、きっとこんな戦いは終わらないから」
そう言って、女は心から笑いました。
すると、男は嗤いました。
「そんなのは、君の言うとおり夢だよ」と。
「人は求める事をやめない。だから、戦いもやめない。
だから、俺は君に刃を向ける人間は全て殺す。
そんな奴がこの地上から姿を消すまで、殺して殺して殺し尽くしてやる」
そう言って、男は静かに嗤いました。
その嗤いを見つめながら、女は男に問いました。
「なら、どうして貴方はそんなに悲しそうに笑うの?
貴方は、本当に笑った事があるの?
それは、本当に貴方が望むことなの?」と。
すると、男は嗤いました。
いえ、悲しそうに笑いました。
そして、質問には答えずに言いました。
「俺は、このままでいいんだよ。君が無事でいてくれるなら」と。
とても、悲しそうに笑いました。
そんな男の背中を、女は寂しそうに見つめていました……