お題44「音楽」

 今の世の中・・・音楽が溢れてる・・・街を歩いていてもお店から音楽が聴こえてきたりで・・・家でもBGMとしてなんとなく音楽を聴いているような気がする。

 

「それじゃ〜またね!」

「うん!がんばって練習しようね!」

私はサークル・・・箏曲研究会での練習を終えて、みんなと別れて帰り道をひとり進んだ。電車に揺られてのんびりと帰る。私はあまり時間におわれてないし・・・電車もすいてるから・・・反対側の電車が混んでるのをぼんやりと見ていた。私はそのぼんやりしたままの思考でカバンの中を見る・・・いつも練習している楽譜が入っている。ちょっとぼろぼろになってしまったかな〜と思った。それなりに練習はしてるつもり・・・、決して上手ではないけれど・・・。

  

「ただいま〜」

私は家に帰って、手を洗って・・・夕飯まで時間もあったので和室に行って自分の箏を出した。調弦をとって楽譜も出して練習をした。ピッチカートの音が納得いかないとか考えながらもある一点からなかなか上達しない自分に呆れて溜め息をつきながら足をくずした。

「やる気なくなったのかな・・・」

私はぼんやり部屋の天井を見ながら考えた。そう思考がはっきりしないのはいつものこと。私はいっつもぼ〜っとしてるからな・・・。

『ねえねえ、しぃちゃん、しぃちゃんは何でそんなにお箏が上手なの?』

小学生の頃の思い出が蘇る。箏が趣味の男の子のお友達にそんなことを尋ねた・・・懐かしい思い出だ。

『う〜ん、練習してるからかな』

『でもただ練習してるだけ?それにも何かコツがあるんじゃないのかな?』

『そうだね・・・聴いてもらいたい人のこと考える・・・とかかな』

『聴いてもらいたい人?』

『うん、たとえば、大切な人とか・・・ね』

しぃちゃんは優しい笑顔でそう言った。

『たいせつなひとぉ〜?』

『きみはまだそういう感じはわからないかな。いつかわかるよ』

『しぃちゃんはいるの?』

『え?ひみつだよ』

しぃちゃんは黒い綺麗な髪をいじりながら笑ってそう言った。照れてたのかなとか・・・今思った。実はこっそりしぃちゃんがお料理している時に和室のこたつの上、見ちゃったんだよね・・・詩が書いてあった。たぶん・・・恋の詩?それと楽譜を書き散らしたようなメモが側にあった。しぃちゃんは・・・作曲してたのかな・・・その曲がどうなったのかは知らない。私も聴かせてもらってない・・・だってしぃちゃんはもうこの世にいないから・・・。

「大切な人・・・ね」

天井を仰いだ姿勢のまま考える・・・いる・・・にはいるけど・・・、箏なんか聴かせたことないし・・・聴いて、なんて声かけるほど正直私には勇気が・・・ない。第一私は箏が物凄く上手ってわけじゃない。ただ・・・サークルくらいでは一番になりたいとか変に闘争心燃やしてよく練習してるだけ・・・それでも、友達の方が上手だと思う。

調絃をとりなおして深呼吸をした。

『大切な人に聴かせてあげたら?』

何故かしぃちゃんの声がしたような気がした。

「どうして?」

『だって大切な人には最高の演奏聴かせたくない?』

「うん・・・それは・・・そうだけどさ」

『そうやって考えたらがんばれないかな?』

「うん・・・そんなこと言うんだったらしぃちゃんにも・・・私の箏聴かせたかったよ」

『え?』

「箏ちゃんと習って、上手になったら・・・しぃちゃんと合奏したかったのに・・・しぃちゃんに聴いて欲しかったのに・・・」

『・・・・・・』

「しぃちゃんのこと好きだったのに・・・なんにも言わずに逝っちゃうなんて・・・ひどいよ・・・」

『ごめんね・・・』

「・・・だから、今から練習するから、聴いていってよ!ま、まだ大切な人に聴かせるほどの腕前じゃないから!」

『うん、わかった』

いるはずがないってわかってる。幻聴だと思う。でもしぃちゃんがにっこり笑って私と箏を間に挟んで向かい合って座ったような気がした。今、練習している曲は、3楽章にわかれていて、違った雰囲気の曲が並んでる。いろんな技も入ってるから・・・私の成長を見せるつもりで、しぃちゃんのために弾こうと思った。しぃちゃんが聴いてくれてるのかはわからない。天国のことなんてあたりまえだけど何にもわからないから。私は今までないくらい一生懸命弾いた。どこを弾いているのか自分でわからなくなるくらい、手が勝手に動いていく。全部弾き終わった後、暑い気候でもないのに汗が垂れた。

『上手だったよ』

「そう・・・かな」

『聴かせてあげなよ、大切な人に』

「うん・・・そうだね・・・」

『がんばってね、応援してるから!』

私は集中して演奏したからか、ちょっと疲れて座ったまま、少しうとうとしてしまった。目を覚ますと・・・しぃちゃんの幻覚も、幻聴もなくなっていた。私はそっと障子を開けて、その奥の窓を開けた。まだ冷たい風が入ってきて、私の長い黒髪を揺らした。

「いつか聴いてもらうよ、しぃちゃんみたいに上手になって・・・あの人に私の演奏・・・最高の演奏聴かせる」

私は自分にやっと聞き取れるくらいの小さな声でそう言った。

 

リビングのテレビからまた音楽が流れている。街にはいつも音楽が溢れている。聞き流されてしまう音楽もたくさん・・・。

 

   私は、一生懸命、箏を奏でるから・・・聞き流さないでほしい・・・


  あなたのために弾くから・・・


  会場にたくさんの人が来てたくさんの人に箏を聴いてもらいたいけど・・・


  私はただあなたのためだけに絃をはじくから・・・


  演奏会までにはもっともっと練習して上手になっておくから・・・


  街に溢れている音楽とは違うの・・・


  大衆向けなんて嫌・・・


  たった一人のただあなたのためだけの音楽・・・


  私、きっと素敵に奏でてみせるから・・・


  私の音楽・・・聴いてね・・・

 


次の演奏会には大切な人を誘おう・・・私は携帯電話をそっととった・・・

 

 

おしまい


〜あとがき〜
何かよくわからない作品です!作品中の私には今はしぃちゃんとは別の大切な人がいるという設定で。この「音楽」は箏絡みで書こうと前々から思ってたので・・・「私」が誰なのかは、まあ、深いこと考えるのはやめておきましょう!(脱兎)・・・まあ・・・作者ですね・・・(汗)帰り道の描写とかまんま私ですから。しぃちゃんもモデルありです。私が師匠の次に箏が上手だと思っている子です。
せつない&過去にとらわれているばかりじゃなく爽やかに前に進んでいる女の子を書きたかったのですが・・・見事な駄作になってしまいました・・・箏だけじゃなく文章力も精進します!!