80・新しい生活




「麻寧麻寧麻寧麻寧!!!!!」
「うるっさい!」
外で自分の名を大声で連呼する声が聞こえて、彼女は玄関の戸を思い切り開けるや否や大声でその声の主を叱咤した。
忍者の住まう里の中の一つ。
この里は規則がそこまで厳しくなので、忍者の里などとは思えないようなほど穏やかな所だった。

月もその姿を現し、太陽の光を反射して怪しく光っている。
そんな満月の夜。

もう既に床についてる者も有るだろうに―――赤毛の女忍の友は、家の前で大声を張り上げた。

「れ〜ん〜?あんたって奴は夜中に大声出すじゃないわよっ
突然現れた友、憐に向かって、焦り半分で頼み込むように言った。
「だってだって破散さんが!!!」
憐は声こそ小さくしたが、尚も興奮気味のようで。
「あぁ、あれ?あいつがどうしたって言うのよ」
麻寧は戸に寄り掛かり腕を組みながら、さも最初から知っていたように言う。
「なんで教えてくれなかったの!?破散さんがこっち来るなんて聞いてないっっ!!!!」
「言ってないから」
もうすっかり全ての情報を調べていると思われる友、憐。彼女は里でも有数の情報通だ。
それ故麻寧は何も言わなかった。
それに、
(領主が言うなっていってたし
極秘任務と言うことだったらしく、取りあえず何も無かったように振る舞った。
どちらにせよ今日の今日だ。明日には里中に噂が広まっているだろう。
忍者の里では珍しいお気楽極楽思考のこの里に、忍の世界でも有名で強力な里から名を馳せている人物がやって来るのだ。
これほど珍しものも無い。
「あーぁ、私も外周りの仕事したいな〜」
麻寧が突っかかって来なかったのが面白く無かったのか、憐が急に話題を変えた。
まぁいつもの事なので特に気にはしないが。
「外周りはきついわよ?いつ死ぬか分かんないし」
憐はいつも中での仕事が回ってくる。その証拠に、麻寧のように外周り専門の忍装を纏っていない。
普通の村娘といった感じだ。
「でもいいなぁ。うらやましい〜」
「はいはい。分かったから用がないだったらもう帰ったほうが良いわよ。明日は忙しいでしょ?」
噂を広めるのに―――、とは言わなかった。
どうせ分かってるだろうし
「そうだった!それじゃ戻んねっ」
そう言って憐は駆け足で戻っていった。



――・・・・で?どうするのよ、明日から有名人あんた」

憐の姿が見えなくなった後、麻寧は誰もいない空間に向かって呆れたように言った。
「お前等が原因だろうが」
大木の上から聞き慣れた声が帰って来る。破散だ。
「言っとくけど私は荷担してないわよ。それより何でそんな所にいんの?」
「領主に呼ばれただがお前等が邪魔で行けなかっただよ。ここしか道ねえし」
「あっそ。でもそんな事しても明日には全部終わりよ〜?いい気味ね」
麻寧は嫌味に言った。
「もう何言ったって無理だろ」
呆れたような声が帰ってくると同時に、気配は消え去る。
結局、勝者は領主なのだろうか。
明日からまた新しい生活が始まる。
最近はどうにも厄介事が多い、と麻寧は一人毒づいた。