一体……一体どうしてこんなことになってしまったんだ?
俺は、俺はそんなつもりなかったのに。
何故だ、何故こんなことになってしまったんだ。
眼下には、愛でるべき彼女が横臥している。
すらりと伸びた彼女の脚。その脚線は当に、よく出来た彫刻のように美しく、それでい
て、森を駆けるカモシカのような躍動感を持っていた。
――――彼女の脚は無残にも戸棚の下敷きになり、その美しさはもはや原形をとどめて
はいない。
細くてか弱い腕、触れればそのまま透過してしまうのではないか思えるほどに白い腕。
――――彼女の腕は肘を支点にあらぬ方向へと折れ曲がっており、昆虫の足を彷彿とさ
せる。
艶やかな長い栗色の髪、驚くほどに滑らかで、一本一本がきめ細かく、絹のような手触
りが僕の心を和ませてくれた。
――――彼女の髪は床に広がり、まるで大輪の花のようだった。
彼女はいつも、春の陽光のような、暖かい微笑みを浮かべていた。僕にとって彼女の笑
顔を見ているその瞬間が、何物にも変え難い至福の時と言えた。
――――うつ伏せた彼女、当然のようにピクリとも動かない。
君は無口だったけれど、いつでもこんな、とりえのない僕に微笑みかけてくれたのに。
僕が楽しい時も、辛い時も、微笑みかけてくれていたのに。
嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!
こんなことが現実であるはずがあってたまるか!
こんな、こんなことが……。
涙が頬を伝う。
彼女と過ごした日々、その掛け替えのない思い出が、スライドしていく。
ああ、神様、できることならほんの3分前に時間をもどしてください。
僕に、僕に彼女を、元気な姿の彼女を帰してください。
コンコン、とノックの音が部屋に響いた。
ノックの主は不躾なことに、返事を待たずに扉を開ける。
「お兄ちゃん、すごい音したけど――って戸棚倒しちゃったの?」
涙が溢れてくる。
こんなの、何かの間違いだ。
「お兄ちゃん、泣いてるの? どっか怪我した?」
無残な姿に変わり果ててしまった彼女をそっと、戸棚の下から助け出した。
「オレの――――」
パラリ、と栗色の髪が垂れ下がる。見開かれた大きな瞳。桃色の花弁を思わせる、小さ
な小さな唇。
こんな姿になっても、彼女はいつもと変わらない微笑のまま。
「限定フィギュアがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
完