お題68「妖精」  箏曲研究会が舞台の小説「風の音楽」の設定で書きました♪

「唐子ちゃん!こんにちは〜これから妖精(エルフ)やるんだけど聴いてくれる??」

大学の和室・・・うち、箏曲研究会の活動場所に入るとさっそくうるさいぐらい元気な鈴の声が耳に入ってきた・・・ちなみに妖精っていうのは曲の名前。定期演奏会に出す曲だ。

「聴き手他にはいないの?」

「ゆうちゃんが戻ってきたら聴いてくれるけど・・・あ、ちなみに今いる演奏者はなっちゃんが今17絃でしょ、あと、葉月先輩と灰野先輩と、吉野先輩来るから♪」

鈴は何だか知らないけどとても楽しそうだった。いや、鈴が楽しそうなのはいつものことだ。なんにもしてなくても笑顔だし、ささいなことでもはしゃいでみせる。黙ってれば物凄くおとなしそうな子なんだけど・・・おしゃべりだし、落ち着きはないし・・・親しまれやすい性格みたいだけど私からすると時々疲れる。

「とりあえず定期演奏会のトリなんだし!気合い入れて練習しないと!だから弾くだけじゃなくて聴き手が必要だな〜って♪」

「あんた六段は?」

「火曜の3限の時間帯にやってるよ!古典は大丈夫!家でも練習してるから!」

とりあえず私に嫌だということは不可能らしい・・・なんだかんだいって鈴におしきられる。私は心のどこかで鈴が憎らしいと感じている気がする。私は部室に箏を取りに行った。

 

「あ、相川さんこんにちは」

部室に入って挨拶してきたのはうちの唯一の男子部員の遠藤だった。

「これから妖精あわせるんでしょ?俺も聴かせてもらおうかな〜」

「OKOTO(曲名)は?」

「みんながきたら練習でしょう?」

遠藤も鈴と同タイプな気がする・・・私は箏を取り出して、遠藤といっしょに和室へと戻った。和室に戻ると、鈴と、夏海と、葉月先輩と灰野先輩、授業から帰ってきたらしい吉野先輩が準備万端で正座していた。

「じゃあ、合わせようか」

吉野先輩がそう言うと、メンバーは手を絃に添えた。最初に出るのは17絃の夏海だ。夏海は私や遠藤と同じで初心者なのにOKOTOだけでなく妖精にも出る。しかも17絃で・・・このへんは才能の違いなのだろうか・・・1年生の経験者でも夏海はいつもすごいすごいと言われている。それもまた妬ましく感じる・・・他の初心者は同じく賛美しているけど・・・。

「あ、いったん止めてごめんね・・・強弱のことなんだけど・・・」

吉野先輩がキリのいいところで止めて呼びかける。鈴は吉野先輩の言葉を一生懸命聞いていた。鈴はこの部では唯一同じ山田流ということもあってかこの先輩に心酔しているみたいだった。しかも美人だしスタイルもいいし聡明・・・まあ憧れる気持ちもわからなくもないかな。『妖精』は経験者とか実力のあるメンバーで演奏するせいか新入部員で演奏する『OKOTO』よりクオリティーの高い注意がとびかう。私たちのだとまだ半拍ずれたりとか音を間違うとかそういう凡ミスが多い。キリのいいところごとで吉野先輩の強弱やテンポのきりかえの話が出ながらも曲をいったん通した。名前から連想されるように妖精は綺麗な曲で、私もわりと好きだ。鈴に感想を訊かれただ『上手だった』とそっけなく答えておいた。

 

 鈴になんかされたとかはない。まああの子も人だから嫌なところもあるけど・・・恨みはまったくないし、仲が良いほうということには変わりない。鈴は高校までは孤立した人間だったらしい・・・でも、今は・・・少なくともここ箏曲ではなくてはならないというか中心人物だ。鈴が来ればみんなの雰囲気が変わる。鈴がそこにいるだけで場が明るくなる感じだ。それが・・・ムカついた・・・。

 

「じゃあ練習こんなもんかな、じゃあ先に帰るね〜」

しばらくして、1年生主体の曲、OKOTOの練習も終わった。夏海をはじめ他のメンバーが帰りだす。手を振る先には箏の前で正座したままの鈴がいた。まだ帰らないみたいだ。鈴は調絃を妖精のものにとりなおしてた。

「まだ練習するの?熱心なことだね」

「今日いろいろ吉野先輩に教えてもらったから」

鈴はそう言うと妖精を弾きだした。鈴は見た目がいい方とは思えない。愛嬌はあるがまあ美人だなんていわれることはないだろう・・・でも箏を弾いている時の鈴は綺麗に見えた。すごく真剣な目をしてるから・・・。私にはこういう状態にはなれない。鈴は素直な性格で一生懸命。しかも箏に関しては努力を怠らない面が目立つ。妖精の・・・綺麗な旋律が似合う気がした・・・。私には似合わない・・・だからメンバーにも入れられなかったかな・・・まあ別に力量の問題だったんだろうけど・・・。

「どうかな?強弱ついてた??」

鈴が顔をあげて訊いてくる。

「そうだね・・・よくなってると思うよ」

「本当?良かった〜」

「鈴ってさ・・・」

「何??」

「妖精みたいだよね・・・」

鈴の頭の上にたくさんのはてなマークが出た・・・ように見えた。それだけ鈴の表情は疑問に満ちていた。

「妖精はこんなにごつくないよ〜」

鈴は苦笑していた。私も私でこうだから妖精みたいだよねということはない・・・ただ鈴は妖精っぽい感じがした。

「まあ中身の問題・・・かな・・・」

「なにぃ〜?唐子ちゃんなんか言った〜??」

「何でもないよ・・・いい加減片付けたら?9時にはここ出ないといけないんでしょ?」

「あ、そうだね、片付けなきゃ・・・」

ほっておくと最終下校時間まで練習してる・・・それが鈴だった。もう慣れたものでパパッと片付けて、私と鈴は学校を出た。

「鈴はさ、なんでそんなに練習するの?経験者だし弾けてるのに・・・」

「う〜ん・・・楽しいから・・・」

鈴はぼんやりとしたいつもの表情でそう答えた。

「箏弾いてると楽しいから、練習熱心とかいうけど楽しいからやってるだけで・・・そんなにすごいもんでもないんだけどね」

鈴はへらっと笑った。ああ、相変わらずまっすぐな子だなぁと思った・・・ムカつく・・・すごく・・・羨ましいから・・・。

「やっぱり鈴は妖精だね」

「へ?」

「なんでもない」

飾り気のない感じ。それゆえちょっとつかみどころがないような気さえする雰囲気。そして自分の気持ちに正直でそれを一直線に貫く姿勢が・・・今時の若者らしい私からすれば非現実的のような・・・妖精のような感じがした。

 

「それじゃあ唐子ちゃんまたね!」

駅の前で別れる。鈴は私に手を振るとくるりと身を翻して駅へと向かった。長いまっすぐな黒髪と足をほとんど隠している長いスカートをふわりと揺らして・・・。

 

自分にも人にも正直な鈴・・・たぶん私よりよっぽど綺麗な心を持っているんだろう・・・。

 

そういうふうになれたら私も妖精みたいになれるかな・・・。

 

あの綺麗な曲が似合うような人になれるのかな・・・。

 

そんなことをぼんやりと考えながら家に向かってまた歩き出した。

 

今日は星や月が優しかった・・・。


〜あとがき〜
えいの趣味丸出しな小説「風の音楽」で書いてみました♪お題は「妖精」でしたが・・・曲名になってますね(笑)というか本当にこの曲定期演奏会で出しましたし(実話)何気にこの曲、「蒼い世界のなかで」の短文でも一度出してます(笑)けっこうお気に入りの曲でして♪
吉野先輩〜!!出しましたよ♪この作品で一番贔屓しているキャラさんです♪
唐子は気持ち嫌な感じの子なのです(何)「風の音楽」は唐子の成長物語でもあるんで・・・気が強いんですが根は良い子・・・のはず(あれ?)
この小説は主な登場人物15人くらいで多いんです・・・だけど14人女の子ですので(何)
鈴は主人公ではありませんが準主人公ですね♪
この話もシリーズ化予定ですのであたたかく見守ってくださいませ♪